3歳児がエアバッグで死亡した「心タンポナーデ」とは?医者も気付けない可能性も…

大阪市東住吉区で軽自動車が電柱に衝突、助手席に乗っていた3歳の女児が亡くなってしまう事故があり、その死因が「衝突時に開いたエアバッグにより胸を強く圧迫されたことによる心タンポナーデ」だと報道されています。

この報道を受けて「心タンポナーデって何?」「病気なの?」という疑問の声が出ているので、心タンポナーデについて、その意味や状態、親として気をつけたいこと、過去に心タンポナーデで死亡した事例などについて情報をまとめてみました。

エアバッグで胸を圧迫され、助手席の3歳児死亡 大阪市東住吉区

大阪市東住吉区で今年2月に、母親の運転する軽自動車が道路脇の電柱に衝突、助手席の女児(当時3歳)が亡くなる事故がありました。

当時、女児に目立った外傷はなく、警察によって司法解剖された結果、今月になって「心タンポナーデ」が原因による死亡だと明らかにされました。

府警は前をよく見ていなかったとして、運転していた母親(30)=堺市中区=を16日、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)の疑いで書類送検した。

引用 エアバッグで胸圧迫、助手席の3歳児死亡か 大阪の事故 (朝日新聞デジタル)

「心タンポナーデ」とは?

心タンポナーデとは、心臓と心臓を覆う心外膜の間(心外膜腔)に血液や、その他の何かしらの体液が大量に溜まってしまうことによって、心臓の拍動が阻害されてしまう状態のことを言います。

心タンポナーデが起きると容易に心不全を引き起こし、死に至るため、早期の診断と手術が必要になります。

特に今回の事故による心タンポナーデは、その原因が「エアバッグによる胸部への強い圧迫」ですが、そういう外傷による心タンポナーデは急速に死に至る可能性が高く、また早期に診断・手術をしても助かる可能性はきわめて低いとされています。

きわめて低い救命率

心タンポナーデを引き起こす主な原因は以下の4つです。

  1. 大動脈解離
  2. 鋭的心壁外傷
  3. 心外膜炎
  4. 悪性心膜中皮腫

このうち上の2つが原因で引き起こされた心タンポナーデは特に致死率が高く、たとえ病院内であっても、一旦心停止してしまえば救命は難しいとされています。

手術の仕方

心タンポナーデになってしまった場合、心外膜腔に貯留してしまった体液を取り除く手術をします。

しかしたとえば今回の事故のように胸部の強い圧迫によって引き起こされてしまった心タンポナーデの場合、貯留してしまった血液を抜いてみても、大量の出血によりあっという間に心停止になってしまう可能性も高いとされています。そのためこういった場合には人工心肺や血液回収装置を準備した上で慎重に手術する必要がありますが、それでも救命率はきわめて低いのが現実です。

親として気をつけたいこと

心タンポナーデは交通事故後によって引き起こされることが特に多いので、たとえば今回の事故のように自損事故であっても、乗車している人間に強い衝撃が加わったような事故の後は、注意が必要です。

エアバッグやシートベルトによる胸部の圧迫に注意

今回の事故はエアバッグによる胸部の圧迫が原因でしたが、エアバッグよりも多いのはシートベルトによる胸部の圧迫で引き起こされる心タンポナーデです。

シートベルトのおかげでフロントガラスに頭を強打するなどの目立った外傷は避けられても、事故による衝撃をシートベルトによってすべて体で受け止めることになるので、強く圧迫されたことによる内臓の損傷が引き起こされる可能性が高まります。

これは急ブレーキ等による衝撃(圧迫)でも(可能性があるという意味では)同じです。ですから、交通事故や、それから何らかの要因による圧迫の可能性があった後は、後で紹介する「様子の変化」に注意を払った方がいいです。

子どもの内臓は損傷しやすい

子どもの臓器は、大人に比べてパンパンに詰まっているため、外部からの圧迫などによる損傷を受けやすくなっています。

もし万が一交通事故や自損事故などを起こしてしまい、その後の子どもの様子に何か変化を感じたら、「まさかあのぐらいの衝撃は大丈夫だろう」などと考えず、注意を払う必要があります。

「大動脈が破裂して心タンポナーデを引き起こした」なんてことになればすぐ心停止に至るのでまた話は別ですが、それ以外にもたとえば腎臓の損傷などの可能性にも注意が必要です。また「微熱が出た→4日後に心タンポナーデの手術で一命を取り留めた」なんて事例(※後述)もあります。

早めに受診しよう

心タンポナーデは、基本的には心エコー検査をすれば心外膜腔に明らかな体液の貯留が確認できるため、診断は容易だと言います。しかしそもそも「心エコー検査をしよう」という判断を下せるかどうかが問題になります。特に胸部の鈍的外傷(圧迫された、等)により引き起こされている心タンポナーデの場合は医師の判断も遅れる可能性があるので注意したいところです。

子どもの顔がやけに青白い、呼吸が弱々しい、手足が冷えてる、などといった様子の変化から病院で受診しても、それですぐ医師が「心エコー検査をしてみましょう」となる可能性は低いと言えます。頭部CT検査、胸部X線検査はしても、心エコー検査をしてみようと判断してくれるかどうかは分かりません。

となると、患者側としてできる対策としては、できるだけ早い段階で受診して、その後の経過を医師自身が見て、医師自身に「何かおかしいな」「他の検査もしてみようか」と思ってもらえるような状況作りをすることが、良策ではないかと思います。

子どもの様子の変化に注意しよう

通常、医師は以下の「Beckの三徴」というものを頼りに心タンポナーデを疑います。

  1. 血圧(動脈圧)の低下
  2. 静脈圧の上昇(頸静脈怒張)
  3. 心音微弱

しかしこれは一般的に成人には当てはまるものの、小児の診断に当てはまるかどうかは定かではありません。

参考 交通事故の鈍的外傷で生じた心タンポナーデの乳児治験例

上記参考リンク先の症例では、Beckの三徴には近いけれどもそれだけを頼りにしていたら判断を誤った可能性のある次のような“様子の変化”があったとされています。

▼診断前の、母親が病院に行く理由となった“様子の変化”

  • 顔面蒼白
  • 四肢冷感(手足が冷たい)
  • 呼吸微弱(呼吸が浅く弱々しい)

そして入院してからは次のような状態の変化があったとしています。

▼初めに入院した近所の病院での所見

  • 翌日に37.5°の発熱
  • 食欲低下
  • その後に熱は39.5°にまで上昇
  • 嘔吐も伴った

▼救急入院した大学病院での所見

  • 上眼瞼の浮腫
  • 眼瞼結膜の軽度貧血
  • 顔面は蒼白
  • 呼吸音は正常
  • 心音も正常で心雑音なし
  • 心膜摩擦音もなし
  • 腹部は軽度膨満

ここで注意したいのは、太字にした部分。この事例では胸部X線検査によって明らかに分かる(通常時の66%も増加)ほど心胸郭比が増加していたため心タンポナーデを確信するのは容易だったものの、通常であれば呼吸や心音などに何らかの変化があるはずなのにそれが無かったとされています。

客観的に見て、この事例は早めに受診したことが何より幸いだったのではないかと思えます。子どもが高熱にうなされてから「熱が下がらなくて…」なんて感じで受診していたら、もしかしたら手遅れになっていたかも分かりません。

普段からそんな過敏になる必要はないけれど、交通事故などという「普段とは違う何か」があった後に現れた小さな変化には、普段とは違う注意の払い方をしたいものです。

心タンポナーデで死亡した例

広く世間に知られている事故のうち心タンポナーデによって死亡した例としては、最近だと以下の2件があります。

  • 広島のスキー場で起きた衝突事故の小学6年女児
  • 大阪・梅田の繁華街で乗用車が暴走した事故の男性運転手

後者は持病による解離性大動脈瘤が原因となって心タンポナーデを引き起こしてしまったようですが、前者の女児は衝突による胸部の強打で大動脈が破裂して心タンポナーデを引き起こしてしまったようです。

ただこういった事例は稀なタイプのものであり、多くは交通事故によるものだと言います。

チャイルドシートを使おう

最後に、チャイルドシートについて。今回冒頭で取り上げた事故は、3歳児を後部座席のチャイルドシートではなく助手席に乗せていたがために起きてしまった事故です。

件の母親は友人の家へ向かう途中で「近所だったので助手席に乗せた」と話していたとのこと。これだけを聞けば誰でもやってしまいそうなことです。

しかし実際に「住宅街をノロノロ走っていて、脇見していて電柱にぶつかってしまった」程度の自損事故でも、助手席の愛娘は死に至ってしまっています。

「まさか」な出来事はいつ起きるか分からないから「まさか」なわけで。しかも法的には「6歳まではチャイルドシートに」ということになっているのでバツが悪い面もあるし。面倒ではあるけれど、チャイルドシートの利用を怠らないようにしたいものです。